公共交通機関の運賃は、子供なら小児料金があっても、高齢者を含む大人は通常料金です。しかし、高齢者の外出を促進することで、閉じこもりの防止と健康維持にも繋がるため、多くの自治体が助成制度を設けています。
また、高齢者は交通弱者になりやすく、収入も年金等に頼る生活ですから、安い公共交通機関がなければ、生活に不便してしまうのも助成する理由の1つでしょう。
公営の交通機関においては、助成した運賃が公営企業(交通局など)の収入になるので、内部にお金が流れていくだけです(一般企業なら連結子会社に流れるのと同じ)。したがって、公営交通機関は手厚く助成しやすい側面があります。
一方、民営の交通機関では、助成した運賃が民間企業に入るとはいえ、地域の交通網維持を目的とした利用促進の一環、もしくは環境負荷低減の一環として助成事業を行っているケースもあるはずです。
このように、高齢者の交通費支援には、福祉の向上と自治体が抱える事情も絡んでいます。
支援制度の仕組み
高齢者の交通費支援は、自治体によっていくつかのパターンに分かれます。どのパターンでも、交通機関の利用頻度によってお得感は変わってしまうため、無料化している自治体以外は、助成制度の仕組みを把握しておきましょう。
【高齢者交通費の支援パターン】
- 現金と併用して使う割引券
- 乗車券の購入やICカードのチャージで使う割引券
- 一定金額の乗車券
- 割引料金で乗車できるICカード
- 所得に応じた負担金で無料または少額運賃の乗車証
- 負担金なしで無料乗車証
なお、高齢者の交通費を無料化している自治体では、対象を路線バスとしている事例が多いです。これは、降車時に運転手が利用者を確認できる路線バスと異なり、地下鉄や鉄道等の自動改札機では不正利用を発見しにくいからだと思われます。
この支援制度を設けている主な自治体
高齢者の交通費支援は、交通機関のICカード化とはあまり関係なく、都市部でも町村でも行われています。自治体の選定には次の点を考慮しました。
- 利用者負担が無料または少額
- 民営の交通機関を対象にしている
- 利用頻度の高い人でも使いやすい
- できれば所得制限がない
また、交通網が発達していない地方では、どうしてもバスだけを対象としている自治体が増えてしまうため、利用者負担額だけを優先せず、意図的に都市部を含めています。
北海道帯広市(おびひろし)
利用者アンケートを受け、従来の制度から拡充されました。市内での乗降車に限定されますが、70歳以上は所得制限なしで路線バスを無料化しています。しかも、無料乗車証に有効期限はなく、助成事業が続く限り使えるのも手間が省けて良い仕組みです。
支援の主な条件 | 70歳以上(年度内に70歳となる人を含む)の市民 |
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支援内容 | ・市内で乗降車する十勝バスと拓殖バスの路線 ・無料乗車証(顔写真付き)を提示すると運賃無料 ・交付時のみ500円の負担 |
公式HP | 高齢者おでかけサポートバス事業 |
徳島県鳴門市(なるとし)
帯広市と似た制度ですが、鳴門市の場合には工夫されています。市内から市外へ乗り越したときは、市境にあるバス停から初乗りした場合の料金、市外から市内に戻ったときは、市境にあるバス停までの料金として、市外への行き来でも市内は完全無料です。
支援の主な条件 | 70歳以上で市の住民基本台帳に記録されている |
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支援内容 | ・地域バス、徳島バスの市内区間、鳴門大麻線、引田線 ・無料バス優待券(顔写真付き)を提示すると運賃無料 |
公式HP | 高齢者福祉 |
兵庫県神戸市(こうべし)
大都市だけあってICカードでの支払いとなり、複数の交通機関で小児料金となる助成制度です。また、高頻度の利用者には、小児料金でも負担が大きくなることから、半額で定期券を購入できるようにしています。
支援の主な条件 | 70歳以上で市内に住所がある |
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支援内容 | ・市バス、市営地下鉄、民営バス、神戸新交通(近鉄のケーブルカー) ・敬老パス(ICカード)で小児料金 ・高頻度利用者は半額定期券の購入も可能 |
公式HP | 敬老優待乗車制度(敬老パス)の内容について |
奈良県奈良市(ならし)
奈良市の制度は、市内での乗車または降車があれば、市外にまたがっても1乗車100円とお得です。交通費支援ではないですが、寺社の入場拝観が無料または割引になる特典も付いている他、健康ポイントカードも兼用しています。
支援の主な条件 | 市内に3ヶ月以上居住する70歳以上 |
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支援内容 | ・奈良交通バスの市内区間 ・ななまるカード(ICカード)で1乗車100円 ・市外にまたがっても1乗車100円 |
公式HP | ななまるカード優遇措置 |
新潟県新潟市(にいがたし)
半額運賃になる制度自体は珍しくないもので、奈良市のように一律100円としている他の自治体と比べても見劣りします。ただ、新潟市の場合には65歳以上を対象としており、現役リタイヤ世代なら即適用となる点を評価しました。
支援の主な条件 | 65歳以上 |
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支援内容 | ・新潟交通の路線バスでICカード「りゅーと」が利用できる路線 ・区バス、住民バスの一部路線を除く全路線 ・「シニア半わりりゅーと」での精算で半額運賃 ・カード発行時のみ2,000円負担 |
公式HP | 高齢者おでかけ促進事業「シニア半わり」の利用方法について |